『アンドロギュノス〜両性者〜』 <ストーリー>

レイは全寮制の高校に通う学生。一見、普通の男子学生だが、レイは中学生の頃から時折起こる腹痛に悩んでおり、月に一度の保健室通 いは彼にとって日常となりつつあった。 そんなある日。高校の養護教諭、あさみはレイの身体に隠された異変に気付く。『半陰陽』…彼は男性器のほかに体内に子宮を持つ変異体であったのだ。スポーツ競技などでは女性器を持ちながら男性の肉体を持つ半陰陽の事例等が問題視されている事もあり、数は少ないもののその存在が認められている。 問題は目の前の生徒が半陰陽である事だ。あさみは事実を告げることに悩み、対処法について大学時代の恩師である舟木教授に相談する。

何も知らないレイはクラスメイトのまさし・さやか・水野らと、平凡ながら楽しい青春をすごしていた。そんな折、レイは水野から重大な秘密を打ち明けられる。水野はまさしが好きだというのだ。
「男同士で?!…それって…」
そう、水野はゲイだった…。
水野は真剣な様子である。まさしとさやかは学校でも有名な美男美女のカップルで、まさしの親友の水野がそこにつるんでいるという図式であった。水野もまさしには劣るものの、なかなかの美男子である。周囲には何故彼女を作らないかという噂があったが、まさかそういう事とは…。
相談されても答え様が無いよな…。帰宅後、レイがメル友のかーこに相談する。かーこは会った事の無いメル友の女の子である。本当に女かどうかは解らないが、お互いの事情を知らない分、本音を言い合える仲であった。 携帯電話の液晶に“自然の流れでそうなったなら、それはそれで認めてあげれば?”という回答。かーこの言葉はいつも冷静で客観的だ。ごもっとも…レイもそう思うが自分の隣にゲイがいると思うと落ち着かない。

そんある日。レイはいつもの…いや、いつもよりも激しい腹痛を覚えトイレに駆け込んで驚く。…排便に大量 の血が混じっているのだ。痔の様子はなく、いつもの腹痛が悪化したモノと思いレイがあさみに相談する。それを聞いたあさみの表情が変わる。 「血は?!今も出ているの?」
あさみは嫌がるレイをトイレに押し込み、血をガーゼに拭き取らせる。…それは生理の下血そのものであった。分析のためあさみは母校の大学に向かう。舟木教授から恐れていた答えが返ってくる。
「彼は1つの身体に『機能する精巣と子宮』の両方を持っている。これは『真性半陰陽』と言って史実に記録が無い程の貴重な存在だ。非常に高い研究価値がある」 研究者として興味を示す舟木教授。一方、あさみは真実を告げるべきか迷う。しかし高校生の男子にこの事実を告げれば自殺の可能性もあり得る、軽はずみな言動は慎むしかなかった。

一方、水野のまさしに対する想いは日に日に強くなって行く。そんな水野の気持ちについにまさしが気付く。まさしは水野を呼び出し、友人のままでいようと告げる。水野はうなずくしかなかった。 消化しきれない気持ちに水野は悩んだ。そんな折まさしの彼女、さやかが中学生の時にレイプされている事実をつかむ。
あさみは悩んでいた。舟木教授の音頭で秘密裏にレイを調査するプロジェクトチームが作られつつあった。舟木の目的は『真性半陰陽』であるレイを学術的に調査する事に重点が置かれていた。あさみはレイが実験マウスのように扱われる事に悩む。しかし舟木教授でなければ成し得ない調査は大量 にあり、レイの扱いはあさみ一人ではどうにも出来ない方向へと流れ始めていた。あさみはレイを欺いて、CTスキャン等の分析調査に誘い出す。

自分の身に何かおかしな事が起こっている…。レイも気付きはじめてはいたが、自分が半陰陽であるなどという考えには当然至らない。そんな折、レイはさやかから過去にあった忌まわしいレイプの事実について相談される。 なんで俺にそんな話を…そう思いながらもレイはさやかの告白を聞く。さやかはレイプの事実を他人に話したのは初めてだった。親にも言えない、クラスメイトの女子にも言えない、交際相手のまさしにも言えるはずがない。さやかは事実を伏せていた苦悩の二年間を泣きはらしながらレイに吐露した。レイは自分なりの答えを精一杯伝えた。それしか出来ない。レイの真摯な態度にさやかの気持ちが氷解してくる。
「レイに相談できて良かった。レイと話してると、男の子と話してるんだってこと、忘れちゃうよね」
笑顔で去って行くさやかを見送りながらレイがぼう然とする。
水野のゲイの相談、さやかのレイプ告白、あさみの保健室での態度…。 男の子に見えない瞬間がある…?!レイは自分の中に男以外の存在があることに気付く――。

レイはあさみを問い詰める。あさみは事実を告白した。レイの身体が半陰陽であること、現在はホルモン注射等により、男性の性を優位 に保つ方法を舟木教授のプロジェクトチームで研究中している事――。 事実はその逆であった、舟木教授はアンドロギュノス(両性者)の状態であるレイを特例中の特例として扱い、この状態を持続したままでの研究を切望していた。しかしあさみにはこの事実をレイに言う事は出来なかった。さらにもう一つの重大な秘密。このまま行くと『自己生殖で妊娠する』可能性がある事も――。
帰り道、ずぶ濡れで雨の中を歩くレイの足元にカタツムリが這っている。
「おまえと同じか――」

その夜、水野がレイの部屋を訪ねてくる。ゲイである自分の存在に苦悩する水野だが、レイはいつものような相談相手になれない。こっちはゲイどころかもっと複雑な存在なのだ。レイは水野に厳しい言葉を放つ。その言葉は水野にとっては捨てられたと感じるほどの辛らつな内容だった。追い詰められた水野は暴挙に出る。出入りするクラブの不良たちを使い、さやかをレイプしようとしたのだ。計画は未遂に終るがまさしの知る所となり、水野はまさしに激しく叱責される。
その夜、水野は寮から失踪した――。

水野の失踪も気になるが、レイは自分に突きつけられた現実を理解するのに精一杯だった。研究対象として大学の医療施設で調査を受ける日々。舟木教授はホルモン療法を偽った治療のフリをしつつ、レイをアンドロギュノス(両性者)の状態のまま保持・研究を続けていた。レイは治療を受けていると思い込み、大人しくモルモットを演じていた。
レイの従順な態度を見て、アンドロギュノスである存在を受け入れつつある事実にあさみは安心する。そんな折、レイのふとした言葉があさみをどん底に突き落とす。
「ホルモン療法が効いてるみたいで最近、調子が良いんです。腹痛もここ数ヵ月おさまってるし。治療の成果 ですかね?」
舟木教授の元にむかったあさみがあ然とする。舟木も予定外の事態に困惑している。…レイは妊娠していた。本人も知らない間に、自己生殖してしまったのだ。
あの日レイが異常に痛がり、下血したのは子宮の機能が成人女性並になりつつある兆候だったのだ――。あさみは自分のうかつさ、舟木教授の思惑に加担した事を激しく後悔した。

水野は行方不明のまま、失踪者として警察に捜索願が出されていた。同じ頃、腹痛は治まったが今度は連日の吐き気…レイは自身の妊娠に気付く――。 高校二年生の男子に降りかかった自分自身の妊娠問題…レイは混乱し、舟木教授はもとよりあさみにも激しい不信感を覚える。

あさみは舟木教授の紹介で、近親相姦について詳しい羽嶋の元をたずねる。異端として出世コースを外れた羽嶋は外見・言動ともに変人だったが知識については豊富であった。羽嶋は実際の事例をもとに、様々な可能性がある事を示す。 多くの場合は身体的な欠陥や精神障害を持って生まれる。一方で、天才的な資質を持った子供が生まれる事例も認められている。しかしさすがの羽嶋でも、レイの事例については全く予想がつかなかった。
1+1=1という究極の近親相姦。羽嶋は1%に満たない天才の生まれる可能性に対し異常な興味を示し、99%を超える欠陥のある子供が生まれる事に全く問題意識を持たない。
羽嶋の態度にあさみは怒りを覚える。

レイは一人悩んだ。メル友のかーこは何故か妊娠の事実を知っており、必死に子供を産むべきと主張する。
“かーこ。オマエあさみ先生だろ?!ふざけた事すんなよ!”
信頼していたあさみに裏切られた気持ちは、レイのなかで大きな怒りに変わりつつあった。そこに着信音。
電話の主はかーこであった。
「私はあさみじゃない!あなたを知っている別の人間。あなたの気持ちがわかるし、力になりたいの」
レイは納得しない。もうおまえが誰でもいい!俺の気持ちがわかる?!誰にもわからないだろう! 堕ろすしかないな…レイは結論を出した。産婦人科の前でウロつくが、こんなところで堕胎手術が出来るわけも無い。 レイは自殺を考えた。この世の見納めと思い、少ないながらも良い思い出のあった学校に向かう。そこに、水野が遺体で発見されたという一報が入る――。

水野はゲイの集まる街で売春を繰り返し、危ないと噂のある人物と付き合い…殺されていた。四肢バラバラに切り刻まれた遺体には犯人の精液がかけられていた。 学校側は水野の死を伏せた。葬儀には特に親しかったレイ、まさし、そしてさやかだけが出席した。葬儀の席で泣きじゃくる3人。出棺前の花を遺体に添える際に、まさしが水野の遺体に抱きつく。 周囲の驚きをよそにまさしが水野にキスをする…。まさしも、水野が好きだったのだ――。

水野のSOSに答えてやれなかったレイ、水野を愛していながら自身のゲイを認められなかったまさし。友人として付き合っていながら、最後は水野を口汚く罵ってしまったさやか…。 そんな折、かーこから再び電話が入る。かーこは必死にレイを説得した。レイは考えるとだけ言って電話を切った。 帰り道。3人が気まずい雰囲気のまま電車に揺られている。レイが重大な告白をする。
「俺さ、男じゃない。っていうか人間じゃないかもしれない――」
レイは決意し、自分がアンドロギュノス(両性者)である事、妊娠している事を告げる。水野の分まで生きよう、死ぬ のはやめよう。そして、自分の中にいる新しい生命をこの世に送り出そう、と。

レイを守れなかった事を深く後悔するあさみ。その感情は教師と生徒のモノではなく、恋愛感情に近いものだった。それを感じたレイはあさみに出産の決意を告げ、同時に自分のあさみへの愛を告白する。 出産は非常にリスクがあった。レイにも、生まれてくる子供にも生命の保証は無い。
「僕に万一の事があったら、生まれてくる子供を守って欲しい」 レイとあさみは教会におもむき、二人きりの結婚式を挙げた。

舟木教授のプロジェクトチームの全面協力の下、レイは出産へと向かう。出産前、かーこからの電話が入る。勇気を持って、強い子を産んで――。 男子には耐えがたいと言われる激痛に苦しみながらもレイは産んだ。 しかし、出産のダメージは大きかった。大量 の出血と医療スタッフのパニック状態の怒声。レイは薄れ行く意識の中で死を予感していた。その時、かーこからの電話が入る。
「お父さん。私を生んでくれてありがとう」
かーこはレイが産んだ子供の17年後の存在だった。物理的には不可能なタイムスリップだが、近未来の世界では、過去にさかのぼって通 信電波を送る技術が確立されていた。かーこは政府の監視下で自分の出産へと導く事を法的に認められていた。近未来で、かーこは貴重な存在のようだった。 あさみが他のスタッフを分娩室から追い出す。あさみの見守る中、レイとかーこが会話をする。
「それで俺。やっぱり死ぬのか?」
かーこがそれを認める。レイはかーこに最後の願いを伝える。
「かーこ…かーこの成長した姿が見たい」
かーこの世界でも過去に映像を送る事は固く禁じられていた。だがレイの望み通 り、かーこは自分の姿を携帯電話の動画として送る。 時空を越え、レイは自分の成長した子供の姿を見ながら、深い眠りについた。

「続いてのニュースです。本日かよこ様が三歳のお誕生日を迎えられ、あさみ様と新宿御苑をお散歩されました」
キャスターが原稿を読み上げている。
かーこはあさみの私生児として育っていた。まだ何も知らないかーこを、あさみは教会へ連れて行く。政府機関によって保護されているかーこは十数年後、神の子として世に紹介される存在だった。 処女のまま出産したマリアの子、キリストと同じように――。

―終―

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